9月10日に行われた『超RIZIN.5 浪速の超復活祭り』(京セラドーム大阪)で朝倉未来と対戦し、格闘技界の話題を集めた青木真也。次の動きに注目が集まるなか、プロレス団体『DDT』と所属契約を結んだことが発表された。これまで“一匹狼”として格闘技界を生き抜いてきた青木は、なぜこのタイミングでDDTに入団したのか。決断に至った経緯や、MMAとプロレスを両立させてきた思いを聞いた。前編では、少年時代に熱狂した新日本ジュニアから、DDTで自分らしいプロレスをつかむまでの歩みをたどる。
【試合写真多数】『超RIZIN.5』朝倉未来vs.青木真也
■少年時代の新日本ジュニアへの熱狂と「プロレス最強説」の変遷
青木真也の格闘技およびプロレスにおける原体験をひも解くうえで、すべての出発点となるのは1990年代中盤における新日本プロレスのジュニアヘビー級戦線である。当時、小学生から中学生へとさしかかる多感な時期にあった青木少年の心を強烈に揺さぶったのは、アントニオ猪木や長州力といったヘビー級の象徴的なスターたちでも、「闘魂三銃士」の華やかなメインストリームでもなく、軽量級のリングでバチバチとした情念と過激さを剥き出しにして戦っていたジュニアのレスラーたちであった。
「あの時代の新日本ジュニアって、とにかくタレントの宝庫でキャラクターが際立っていたんですよね。(獣神サンダー・)ライガーさんが絶対的な象徴として君臨していて、金本(浩二)さんが殺気全開でバチバチやり合って、高岩さんがパワーでなぎ倒して、大谷(晋二郎)さんが顔面で怒りや苦悶を表現するような感情のプロレスを見せる。そこにペガサス・キッド、ドクトル・ワグナーJr.、ブラックタイガーなどの外国人選手もいて、(ケンドー・)カシンさんみたいな斜に構えた異彩が絡んでくるわけじゃないですか。過激さと強さ、そして喜怒哀楽の人間模様を全開にするプロレスに、少年時代の僕は本気で熱狂したし、強烈に突き動かされました」
柔道に打ち込みながら「強さとは何か」を愚直に追い求めていた少年時代の青木にとって、彼らが魅せる表情の豊かさと打撃やサブミッションの過激さは、まさに強さの究極の表現として網膜に焼き付いた。2026年現在、プロレスと総合格闘技(MMA)は明確にジャンル分けされ、それぞれの競技性や見せ方が確立されているが、約30年前のプロレスを取り巻く環境や『強さ』への期待は、現代のファンの認知とは一線を画すものであった。当時のファイトシーンにおいては「プロレスラーは本当に強い」「新日本プロレスのレスリング出身者こそが最強である」という『プロレス最強説』幻想が根強く存在しており、世間一般もプロレスの中に本物の「強さ」の夢を重ね合わせていた。
しかし、90年代後半になると、青木が熱狂した「プロレスの幻想」は急速に解体され、厳しい現実にさらされる。その決定的な契機となったのが、髙田延彦とヒクソン・グレイシーの戦いを発端として爆発的な熱狂を生み出した総合格闘技イベント「PRIDE」の台頭であった。PRIDEは、それまでプロレス界が長年にわたって築き上げてきた「プロレスラー最強」という幻想やストーリーテリングのカルチャーを、文字通り「食って」巨大化していった。その過酷なリアル格闘技の検証装置として機能するにつれ、プロレスの持つ幻想を一つひとつ剥ぎ取っていくことになった。
■「田村潔司にも触れてみたい」青木真也が共鳴する孤高の美学
そんな現実の中でも、PRIDEでプロレスラーの強さを証明しながら、新日本プロレスのリングでもIWGPのベルトを獲得するなど唯一無二の存在感を放っていたのが、藤田和之と石澤常光(ケンドー・カシン)の2人だった。現役時代の猪木をリアルタイムで体感していない青木世代にとって、藤田は猪木イズムの真髄や「プロレスラーの強さ」を具現化したプロレスラーであり、分厚い肉体と圧倒的なタフネスでモンスターとして君臨する姿に、青木は現在まで「これこそが最強のプロレスラーだ」という強烈な憧れと敬意を抱き続けている。
また、2000年のPRIDE.10でのMMA初挑戦でハイアン・グレイシーに敗れるも、翌年のPRIDE.15で見事なリベンジを達成した石澤についても、青木は単なる個人の勝利という以上に「新日本プロレスがグレイシー柔術に勝った」というジャンル対抗戦としてのカタルシスを感じ取り、プロレスの持つ底力に熱狂。自身にとって「強さの象徴」だった2人のプロレスラーとプロレスを通して触れることができた青木は、「この2人の存在は自分の中ですごく大きいです」と言葉に力を込めた。
そしてもう一人、青木が技術・コンディション・美学のすべての面において絶大なリスペクトと崇拝を捧げているのが田村潔司である。敗れはしたものの、PRIDEでのヴァンダレイ・シウバ戦や吉田秀彦戦で田村が見せた、技術的精度と研ぎ澄まされたコンディションは、他のレスラーとは一線を画すものであったと青木は語る。さらに、「世間で評価されているのは桜庭和志だけど、純粋な格闘家としての技量やストイックな姿勢、常に完璧なコンディションを保つ自己管理能力など、格闘技者としては田村潔司のほうが上じゃないかって思っちゃうんですよね。佐伯さん(DEEPの佐伯繁代表)も『UWFルールなら田村潔司が一番』と言っていたし、僕も異論はないです」と断言する。
大一番で入場曲を突如変更するなど常に組織や現状に不満や抵抗を抱え、安易に世におもねらない田村の生き様と孤高の美学に共鳴した青木は、「UWFルールや田村潔司の戦いこそが、現代においても正当に評価されるべき“伝統文化”ですよ。僕はプロレスで藤原組長をはじめ、鈴木みのる、船木誠勝、藤田和之、ケンドー・カシン、桜庭和志といったUWFや新日本の系譜に連なる名立たるレスラーたちと肌を合わせてきました。間に合うのなら、田村潔司にも触れてみたいです」と熱望している。
■「自分もプロレスに触れてみたい」DDT参戦から6年目につかんだ手応え
青木自身がプロレスのリングに上がるまでの歩みをたどるため、話を2000年代に戻そう。総合格闘技に多くのプロレスラーが挑戦していくなかで、永田裕志がミルコ・クロコップやエメリヤーエンコ・ヒョードルといった怪物たちと対戦させられ、選手もファンも過酷な現実に直面させられ、プロレスラーが消費され“幻想”が失われていくと、2000年代中盤にいわゆる「プロレス暗黒期」に突入していく。時を同じくして、青木も大学在学中にプロ格闘家となり、リアルな勝負の世界にその身を投じていくことになった。世間の人気は完全に格闘技がプロレスを上回るようになり、新日本プロレスも売却されるなど存続が危ぶまれる時期もあったが、約10年におよぶ苦しい時期を乗り越えて、徐々にプロレス人気が回復していく。青木が当時を振り返る。
「棚橋弘至と中邑真輔が支えてきた土台にオカダ・カズチカが入って、内藤哲也のロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンが大ブレイクして、2010年代の新日本プロレス1・4東京ドーム大会にお客さんが集まるようになっていくんです。僕は、2015年ころのファイトスポーツでは棚橋弘至が最強だったと思っています。テレビでも電車の中吊りでもよく見かけていたし、当時はまだRIZINもなかったので、あの頃にファイトスポーツで影響力を一番持っていたのは、間違いなく新日本プロレスだったし、その中心が棚橋弘至でした」
再びプロレスが“王道”に戻っていく時代の流れの中で、当時はONE Championship(以下ONE)で戦いながらも、大衆の心を揺さぶるプロレスの勢いを感じた青木真也は、「自分もプロレスに触れてみたい」と感じるようになる。目をつけたのは、DDTだった。2018年にABEMAではDDTのレギュラー番組を毎週放送しており、これに出演することで「もちろんプロレスをやりたい気持ちがあったけど、ONEもABEMAで放送してたから、メディアへの露出だったり、多面的な自分を見せるための表現の場としても、すごく魅力的だと思えたんですよね」と当時の心境を明かす。
「最初は“異物”としてファンから警戒されたけど、DDTのリングは懐が深くて。自分の強さであるとか、価値観の形成というものがだんだん変わっていきました。だって、自分は90年代の新日本プロレスに憧れてたのに、男色ディーノさんと戦うんだから(笑)」。DDTという団体の持つ圧倒的な懐の深さと自由な表現空間に魅了された青木は、早期に実現した当時の若きエース・竹下幸之介との試合も高い評価を得ることができたが、「自分の中でプロレスの解像度が上がって、自分らしいプロレスができたって感じられたのは、2024年くらいですね」と回想する。
DDT参戦から約6年を経てつかんだ手応え。そこに至るまで、青木真也は何を考えてプロレスのリングに上がり、同時に格闘技の試合にも挑んできたのか。インタビュー後編では、さらに深い思いを聞いた。
【大会情報】
青木真也のDDT所属第1戦!年間最大ビッグマッチでザック・セイバーJr.と対戦!
DDT『Ultimate Party 2026』
【日時】2026年11月3日(火・祝) 開場12:30 開始14:00
【会場】東京・両国国技館
チケット発売中。プロレス動画配信サービス『WRESTLE UNIVERSE』でライブ配信。
○KO-D無差別級選手権試合
<王者>MAO vs クリス・ブルックス<挑戦者>
※第89代王者6度目の防衛戦。
○ドラマティック・ドリームマッチ
ザック・セイバーJr. vs 青木真也
○スペシャル3WAYマッチ
KONOSUKE TAKESHITA vs 男色ディーノ vs 佐々木大輔
○DDT EXTREME選手権試合
<王者>勝俣瞬馬 vs 上野勇希<挑戦者>
※第65代王者3度目の防衛戦。
※ルール未定。
○飯野雄貴DDT所属ラストマッチ~スペシャルシングルマッチ
飯野雄貴 vs 納谷幸男
○KO-Dタッグ選手権試合
<王者組>正田壮史&高鹿佑也 vs 岡谷英樹&イルシオン<挑戦者組>
※第91代王者組2度目の防衛戦。
○スペシャルシングルマッチ
葛西純 vs 葛西陽向
○スペシャルタッグマッチ
To-y&武知海青 vs KANON&隈取 with KIMIHIRO&YUZUKI
○4WAYタッグマッチ
マンスール&メイソン・マッデン vs 高尾蒼馬&翔太 vs MJポー&デムース vs 宮脇純太&佐藤大地
○髙木三四郎&大鷲透&平田一喜 vs スーパー・ササダンゴ・マシン&アントーニオ本多&彰人
○秋山準&稲畑誠己 vs HARASHIMA&吉村直巳
○ダークマッチ
シーバム&夢虹 vs 松永智充&石田有輝
※ダークマッチ以外の試合順は未定。