塚本晋也監督の最新作『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』が、イタリアで開催中の「第83回ベネチア国際映画祭」で現地時間4日にワールドプレミア上映され、約8分間に及ぶスタンディングオベーションを浴びた。
【画像】現地から届いたレッドカーペット、公式上映、囲み取材の写真
レッドカーペットには塚本監督をはじめ、主演のロドニー・ヒックス、精神科医ニール・ダニエルズを演じたジェフリー・ラッシュらが登場。世界各国のファンから寄せられる声援やサインの求めに笑顔で応じた。
コンペティション部門に選出された本作は、ベトナム戦争に従軍したアレン・ネルソン氏の証言をもとに、戦争によって加害者側にも生まれる深い傷を描いた作品。満席となった会場では、観客が静かな緊張感の中でスクリーンを見つめた。
本編が終わり、エンドロールが始まると観客が一斉に立ち上がり、拍手と歓声は約8分間継続。塚本監督とラッシュは感動した表情で客席を見渡し、ヒックスは涙を流した。
上映後の囲み取材で塚本監督は、「企画自体がチャレンジングで、多くの会社の方が簡単に許可を出してくれるような企画ではなかったため、実際に上映してみるまで、どのようなリアクションがあるのかはわかりませんでした。そのうえで今の世界に必要な映画だという確信はありましたが、加害者の視点から描いた本作が、どこまでお客さまに受け入れてもらえるのか未知数でした」と、上映前に抱えていた不安を明かした。
続けて、「今日、実際に上映して、お客さまに伝わったという感触を得られたので、本当によかった」と確かな手応えを口にした。たびたび作品を出品してきたベネチアについても、「緊張するというより、ホームグラウンドに戻った安心感がある。第2の故郷のような感じで、温かい雰囲気で上映できたのがうれしい」と笑顔を見せた。
記者から「映画に戦争を止める力があると思うか」と問われたラッシュは、「これで戦争を止められるかというと、非常に難しい。むしろ今の時代は、ひどくなっている気がします」と率直に回答。それでも、「今日の観客の反応を見て、“なぜ私たちは戦争をするのか”という疑問を、本作は多くの人に投げかけることができたと思います」と語った。
ヒックスも「ある種の観客に対して、種まきができたのだと思います」とコメント。「これから水をあげていけば、そこから何かが芽を出すかもしれない」と、映画が観客の心に残した問いの広がりに期待した。
塚本監督は「僕は、戦争を止めようというくらいの気持ちでこの映画を作っています」と改めて強調。「頭で考えるだけではなく、体で戦争の恐ろしさを感じてもらい、本能的に戦争を拒否するような体感を持ってもらいたいと信じて作っています」と作品に込めた思いを明かした。
世界情勢を前に、自身が投げた「石つぶて」が吸い込まれてしまうのではないかという不安もあったという。しかし、ベネチアの観客から寄せられた大きな反響を受け、「もしかすると、戦争を止められるかもしれないという気がしました」と、新たな希望を見いだした。
「少しでも多くの人に観てもらえば、戦争を決める立場の人たちを止めることはできる。今日のリアクションを見る限り、もしかすると戦争をかなり止められるのではないかと感じました」と語っていた。
金獅子賞(最高賞)をはじめとするコンペティション部門の受賞結果は、現地時間9月12日に発表される。授賞式を前に、『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』は日本時間9月11日から全国公開。