BANDAI SPIRITSのサステナブル活動の一環として、全国の小学校向けに無償提供しているプラモデル授業プログラム『ガンプラアカデミア』。2021年の開始から5年を迎え、累計参加児童数は100万人を突破した。教育現場では「主体的・対話的で深い学び」が求められる一方、生徒間の意欲格差や教員負担といった問題もある。そうした課題解決にも繋がると人気を得ている『ガンプラアカデミア』は、工場見学をきっかけに生まれたプログラムだ。立ち上げの経緯や教材に込めた工夫、子どもたちや教育現場から寄せられるリアルな反響について、同社の中桐美由貴さんと井出遥さんに話を聞いた。
【写真】大量にあるガンプラが壮観…通常とサイズも異なる『ガンプラアカデミア』
◆工場見学が発端となった『ガンプラアカデミア』導入背景は?
『ガンプラアカデミア』は、児童が自分の手でガンプラを組み立てる体験と、プラモデルの製造工程やリサイクルを解説した動画を通して、ものづくりの仕事の面白さや奥深さ、企業のサステナブルへの取り組みを学べる無料の授業パッケージ。小学5年生を推奨とし、2021年10月から2026年9月4日までの累計で、1万5375校、104万169人の児童が参加した。プラモデルを題材に、工場の生産工程や技術の発展を理解する「日本のものづくり」、生産に関わる人々の努力や仕事への向き合い方を理解する「キャリア教育」、プラスチック廃材の再利用などから「SDGs」を学ぶことができる。
また、文部科学省が定める「総合的な学習(探求)の時間」(教科の枠を超えて横断的・総合的な課題学習を行い、自ら課題を見つけ、主体的に考え、問題を解決する資質や能力を育てるための教育課程)としても機能していると、現場の教員からも好評である。
――「ガンプラアカデミア」を立ち上げたきっかけを教えてください。
【中桐さん】 2019年に、社内の企画提案制度である「開拓者魂」で「オンデマンド授業×プラモデル」を提案したことが始まりです。2006年に静岡市長沼の地にバンダイホビーセンターが移転して以降、たくさんの学校から工場見学の受け入れを行ってきました。しかし、遠方の学校は現地まで見学に来ることが難しく、心残りがありました。子どもたちから「見学には行けないけれど質問したい」とお手紙をいただくことも多く、もっと多くの子どもたちにものづくりの楽しさを届けたいと思ったことが原動力となりました。また、ホビーセンターへの訪問が小学校の社会科の授業(工業単元)と深く結びついていると知っていたことも、教育プログラムとしての提案を後押ししました。
――導入初期に、教育現場でのハードルはありましたか?
【中桐さん】 思いのほかスムーズに受け入れられました。私たちが提案した2019年頃から、学校現場では「GIGAスクール構想」による1人1台端末の整備など、ICT環境の構築が進んでいました。そこへ2020年のコロナ禍が重なり、校外学習や工場見学の中断を余儀なくされたことで、オンラインでの配信授業が一気に普及したんです。各教室にモニターなどの環境が整っていたため、スムーズに導入が進みました。
――学習指導要領で「主体的・対話的で深い学び」が求められ、アクティブ・ラーニングの手法を用いた探究学習やグループワークなどが、教育現場に浸透しつつあります。一方の学校現場では、「生徒間の意欲格差」や「人間関係の摩擦」などの課題もあります。そうした課題解決にも繋がるプログラムと人気ですが、ガンプラを組み立てるという工程が障壁になることはありませんでしたか?
【中桐さん】 その心配は特にありませんでした。ホビーセンターでの工場見学を受け入れていた頃から、小学生の段階では皆さんプラモデルに興味津々の様子で楽しんでいる姿を見ていたからです。実際、授業を行うと、プラモデルが得意な児童が苦手な児童をサポートしたり、手先の器用な児童が組み立ての早さで活躍したりと、多様な子どもたちが一緒に輝ける時間になっています。
◆「教育としての質」を追求――プロの知見と専用「アカデミアキット」に込めた工夫
――プラモデルを教育用の「教材」に落とし込むにあたり、どのような工夫をされましたか?
【中桐さん】 私たちは長年ものづくりに携わってきていますが、教育に関しては専門的な知見が必要です。そのため、株式会社NHKエデュケーショナル様、NPO法人企業教育研究会様と連携し、指導案を作成しました。熱心に取り組まれている学校に模擬授業をしていただき、現場の反応を見ながら内容をブラッシュアップしていきました。
――授業で使用するプラモデル自体にも、特別な設計がされているのでしょうか?
【中桐さん】 ガンプラアカデミア専用の「組み立て体験用キット」を開発しました。初めてプラモデルを作る子どもでも挫折しないよう、パーツの配置や組み立て方を分かりやすくし、理解してくると難易度を少しずつ上げて組み立てに達成感を得つづけられるように工夫しています。
【井出さん】 さらに、最近は説明書を読むことに苦手意識を持つお子さんもいるため、「パーツをランナーからどう外すか」といった組み立ての基本を解説するサポート動画も用意しています。また、ミニ先生として手先の器用な児童が活躍する場面も多く、みんなで作る過程を楽しんでもらえています。
――教育現場では、探究学習やグループワークによる外部連携や事前調整、授業中のファシリテーションや進捗管理、客観的な評価基準を始めとした「指導の負担」や「教育現場の形骸化」といった課題もありました。負担を軽減し、授業を円滑に進めるために、先生方への配慮について教えてください。
【井出さん】 教員の皆様の準備負担を最小限に抑えるため、教室内のモニターと届いた教材さえあればすぐに実施できるパッケージにしています。授業時間に合わせて選べる「1コマ用」「2コマ用」の指導案や、印刷してそのまま使えるワークシートを先生用に配信しています。これによって現場の働き方改革や負担軽減にも貢献できていると感じています。
◆才能発揮する子どもも…教員と生徒双方にとっての「ご褒美授業」が起こす化学反応
――単にプラモデルを作るだけでなく、どのような学びを提供しているのですか?
【中桐さん】 配信映像では、企画、設計、金型、成形、品質管理など、各工程の担当社員が「どんな想いを持って仕事をしているか」をリアルに語る構成にしています。日本のものづくり産業において、人材の減少は大きな社会課題です。このプログラムを通じて「ものづくりの仕事って面白そうだな」と感じてもらうためのキャリア教育としての側面を重視しています。
――環境学習やサステナビリティの要素も組み込まれているそうですね。
【中桐さん】 カラフルな通常版のプラモデルに加えて、プラモデルのランナー(枠の部分)をリサイクルした素材を利用して作られた「エコプラ」版のキットも用意しており、学校側で選択できるようにしています。さらに、オプション授業として、実際に成形機を積んだトラックが学校へ行く「マイプラスチックステーション」も展開しています。授業で出た体験用プラモデルのランナーをその場で粉砕・再成形し、定規に生まれ変わらせる体験を通じて、リサイクルを自分事として捉えてもらっています。
【井出さん】 また、静岡市との取り組みとして、地元の海で回収したペットボトルなどの海洋プラスチックを混ぜ込んだプラモデルを開発し、環境問題に特化した「CLEAN OCEAN ACADEMIA(クリーンオーシャンアカデミア)」もスタートしました。推奨学年を小学4年生とし、ゴミの単元に対応した動画や指導案を用意し、多角的なアプローチを進めています。
――授業を受けた子どもたちや、先生方からはどのような反響がありますか?
【中桐さん】 アンケートでは「BANDAI SPIRITSで働いてみたい」という嬉しい声や、熱いお手紙をたくさんいただきます。また、先生方からは、普段はおとなしい児童がプラモデル作りで才能を発揮して「クラスのヒーロー」になったというエピソードを伺うこともあります。子どもたちがとても楽しみにしているため、先生方からも大変好評をいただいております。
【井出さん】 授業の枠を超えて、ランナーを使ってアート作品を作るなど、子どもたち独自の遊び方も生まれています。また、実物が手元に届いて、組み立てるときに「パチン」とはまる感覚を味わうことで、工場の人たちが金型を1ミクロン単位で微調整したり樹脂にこだわったりしている意味が、より深く子どもたちに伝わっていると実感します。
◆次の5年・10年へ――「着実に長く続けること」が未来のものづくりを創る
――ご家庭や遠方の地域からの反応はいかがでしょうか?
【中桐さん】 組み立てたプラモデルを持ち帰ることで、ガンプラブーム世代の親御さん(特にお父さん)との会話が弾み、家庭内でのコミュニケーションが生まれたというお話をよく耳にします。また、離島や山間部など、周囲に工場がない地域の学校からは「実際に工場見学に行けなくても、リアルなものづくりの熱量と現物が手元に届く体験ができて、深く納得できた」との声をいただいています。
――累計100万人を突破されましたが、今後の活動の展望を教えてください。
【中桐さん】 これまでの広がりとしては、台湾の小学校での実施など海外への展開が始まっているほか、国内では大阪府教育庁と連携し、全公立小学校へ一括導入した実績もあります。今後は、海洋プラスチックをテーマにした「クリーンオーシャンアカデミア」のように、中高生向けにもキャリア教育の側面を強化したプログラムを拡充していきたいです。水族館(サンシャイン水族館様や名古屋港水族館様など)とコラボレーションした海の環境学習など、アプローチも多角化しています。
――プロジェクトが目指す最終的なゴールはどこにありますか?
【中桐さん】 引き続き全国の小学校様での導入を目指すと共に、「着実に長く続けること」に一番の意義があると考えています。毎年新しく小学5年生になる子どもたちに、プラモデルの面白さやものづくりの奥深さを届けていくことが大切です。実は最近、BANDAI HOBBY CENTER PLAMO DESIGN INDUSTRIAL INSTITUTE MUSEUM(バンダイホビーセンター プラモデザインインダストリアルインスティチュートミュージアム)に来てくれた中学生が「小学校の時にガンプラの授業を受けました」と教えてくれたんです。いつかBANDAI SPIRITSの採用面接の場で「小学生の時に、ガンプラアカデミアの授業を受けました」と言ってくれる方が現れる日を夢見ながら、これからも変わらぬ決意で、この活動を長く届けていきたいです。
(文/磯部正和)