先日、フジテレビが10月期に初の海外共同制作ドラマを放送すると発表し、大きな反響を呼んだ。VODの台頭により、日本のテレビ局は、プラットフォームに依存しないコンテンツ制作という喫緊の課題に直面している。一方で、いち早くVODの波を捉え、世界的な地位を築いたのが韓国だ。彼らはなぜ、エンタメを通じて食や美容などの文化までをも海外に浸透させられたのか。日本との構造的差異や、変遷の裏側にある生存戦略について、韓国大手CJ ENMに話を聞いた。
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◆ドラマやサバイバルオーディション番組も…韓国におけるCS放送の躍進
VODの普及により、日本のテレビメディアは、かつてほどの勢いがないのは周知の事実。韓国も同様にVODの波にさらされているものの、世界を席巻する良質な国産コンテンツを創出し続けている。なかでも、「Mnet」や「tvN」、「JTBC」といったCS局が、公共放送のKBS(『冬のソナタ』)、主要民放のMBC(『宮廷女官チャングムの誓い』)やSBS(『ペントハウス』)に匹敵、あるいは凌駕する影響力を発揮していった。
日本では、CS放送は地上波放送の補完的なメディアの域に留まってきた。一方、高層アパートが主流の韓国では、建物の管理契約にケーブルテレビやIPTVの視聴が含まれるケースが一般的。入居時から多チャンネル環境が担保されているため、日本よりも有料放送への視聴ハードルが圧倒的に低い。
しかし、要因は住宅環境だけではない。例えば、tvNは『愛の不時着』や『ヴィンチェンツォ』、JTBCは『SKYキャッスル~上流階級の妻たち~』や『梨泰院クラス』といったヒットドラマを連発。音楽専門のMnetでは、サバイバルオーディション番組によりK-POPのローカライズを成功させた。CS局がメインストリームで地位を確立している理由について、CJ ENMのMnet事業部長のユン・シネ氏は次のように語る。
「地上波とは異なるコンセプトやストーリーテリングにおいて、より新たな挑戦を続けてきた点が大きいと考えています。例えばMnetでは、1995年の開局当時、音楽専門チャンネルとして若い世代が好きなミュージックビデオと新曲をいち早く紹介し、若者から熱狂的な支持を得ました。その後もスターのリアリティ番組など、既存のバラエティの文法を壊し、MCSシステムを基盤として様々なジャンルの『サバイバル番組』を展開し、オーディションの名門として地位を築いています。『偏見を打ち破る新しさ』を基盤に、常にトレンドを見逃さないように努めてきた結果であると考えております」
◆BTSの海外躍進の裏には、K-POPのグローバル化を牽引したCS放送の戦略が
こうした「挑戦的なコンテンツ制作」は、放送局の枠を超えたグローバル戦略へと直結していく。韓国のCS放送は、K-POPの世界進出においてメディアを超えたプロモーターとしても機能した。
「2009年からグローバル授賞式『MAMA AWARDS』を始動し、2010年からは海外で開催してきました。また、2012年に米アーバインで始まった『KCON』を通じて、海外のメインストリームにK-POPを広める先駆的な役割を果たしました。実際に、BTSが2014年の『LA KCON』を通じてアメリカの現地ファンから関心を持たれ、世界で躍進する足掛かりになったと語るなど、海外メディアも『KCON』の影響力に注目しています。2015年からは日本をはじめ、アジア、ヨーロッパ、中東など世界各地で開催され、アーティストがグローバルのファンに会うきっかけとなり、K-POPのグローバル化に大きく寄与してきました」(ユン・シネ事業部長)
また、音楽番組やデジタルプラットフォームの活用も、アーティストのブランディングを強固にしている。
「Mnetの音楽番組『M COUNTDOWN』は、音楽番組初の体育館生放送やチッケム(推しカメラ)の初提供など、K-POPを『聴く楽しさ』から、パフォーマンスやスタイリングを含む“総合芸術”として披露してきました。さらに、デジタルプラットフォーム『Mnet Plus』を通じて全世界に同時配信および投票を行いながら、ファンの声を迅速に反映する仕組みを構築しています。これにより、時間と境界を越えて世界中のファンが共に楽しむ祭典としての地位を築いているのです」(ユン・シネ事業部長)
特に『PRODUCE 101』や『Girls Planet 999』、『BOYS PLANET』などの番組は、視聴者を主体的な参加者に変え、K-POP界の勢力図を塗り替えた。
「100%視聴者の投票でデビューメンバーが決まるため、練習生の努力と成長の過程に視聴者が深く没頭し、双方向コミュニケーションが形成されます。これにより、アーティストはデビューと同時に強固なファンダムとの絆を持つことになります。例えば、今はグローバルに拡張され、第4弾が配信されている『PRODUCE 101 JAPAN』シリーズから誕生したJO1、INI、ME:Iなどが、その代表例です。また、番組から誕生したグループだけでなく、番組で活躍した多くの参加者たちがアーティストとしてデビューし、重要なターニングポイントになっています」(ユン・シネ事業部長)
◆“テレビ離れ”の中、韓国テレビ局が世界で頭角を現した逆転の発想
こうしたK-POPを軸に成功を収める一方、韓国メディアも、OTTプラットフォーム(VOD)の台頭により、リニア放送の視聴率低下や広告縮小といった「テレビ離れ」という共通の課題に直面していった。しかし、日本がVODを既存モデルへの「脅威」と見なしたのに対し、韓国はそれをグローバル展開の「パートナー」と定義した。
例えば、CJ ENMと『愛の不時着』(tvN)を手掛けた制作会社「STUDIO Dragon(スタジオドラゴン)」、そしてJTBCは、Netflixと長期的な戦略的パートナーシップを締結。「放送枠を売る」モデルから「コンテンツIPを世界に売る」モデルへの早期シフトが、莫大な制作費の回収と高品質化の好循環を創出した。
「テレビ市場だけに固執することなく、メディア環境の変化に上手く対応してきたと考えています。実際に、世界各地域のOTTプラットフォームからも、弊社のコンテンツを調達・流通したいという提案が多く寄せられており、海外プラットフォームを通じたコンテンツ展開にも力を入れています。チャンネルという枠組みを保守的に守るのではなく、新しいメディアの配信トレンドや技術をいち早くキャッチし、それに合わせて変化し続けてきた成果だと感じています」(ユン・シネ事業部長)
また、かつてのテレビ放送が一方通行の供給形態であったのに対し、韓国のメディアはデジタル時代に合わせ、ファンダム(熱心なファンたちが作り上げる、文化的なコミュニティやその世界観)とのインタラクティブ(双方向)なコンテンツの試みを続けてきた。VOD全盛時代においても、韓国のテレビメディアが強い影響力を維持できる理由は、ライブ感や付加価値の提供にあった。
「リアルタイム視聴だけでなく、時間と地域の限界を越えられる環境を活かした新たな価値創出が可能です。サバイバルオーディションのように、リアルタイムで喜怒哀楽を共有する体験を提供することで、テレビメディアへの集中力を維持しています。同時に、多彩なデジタル付加コンテンツを通じてVODでの再生産や拡散を促し、放送の余韻を継続させる取り組みを行っています。韓国もメディア環境の変化という課題は日本と共通していますが、絶えず挑戦することで突破口を見出そうとしています」(ユン・シネ事業部長)
◆流行から“生活インフラ”へ Kカルチャーが日本の日常に浸透した理由
こうした柔軟なプラットフォーム戦略とファンダムへのアプローチは、単なる視聴率対策に留まらない。1つのヒットIPから生まれる熱量を、ドラマや音楽の枠を超えた「リアルな体験」へと拡張するための土台となっているのだ。
韓国メディアが構築したのは、コンテンツを核に食や美容、ファッションまでを網羅する全方位的なエコシステムである。これにより、エンタメは単なる「消費対象」から、ファンの日常を彩る「ライフスタイル」そのものへと進化した。K-POP公演を中心に多様なコンベンションや体験型コンテンツを融合させたフェスティバルを通じて、「推し活」の基盤を構築したことも、その一例である。CJ ENMのコンベンション事業部長パク・チャヌク氏は、その本質を言及する。
「これは『HIP HOPはラップという音楽なのか、それとも1つの文化なのか』という問いに近いかもしれません。HIP HOPは音楽であると同時に1つの文化であり、ライフスタイルを表現するものだと考えています。Kカルチャーは一時的な“流行”の域を超え、日本の生活に不可欠な“生活インフラ”へと昇華されました。Kビューティーは常設販売によるルーティン化した日常の消費へ、Kフードは外食から家庭の食卓へ、K-POPは大衆的なプレイリストへと浸透しています」
この“生活の一部”となった熱狂をリアルな場で結実させ、多角的な文化発信地として機能させたのが、2012年からCJENMが開催している、ファンとアーティストが共に楽しむ世界的なK-フェスティバル『KCON』だ。
「私たちが重要視しているのは『つながり』と『体験』です。『KCON』が掲げるのも、K-POPというジャンルを超えてライフスタイルそのものを経験する『Every K Festival』。食や美容といった各カテゴリーを連結し、ファンが自ら参加して相乗効果を生み出す構造を構築しています」(パク・チャヌク事業部長)
『KCON JAPAN』は、2015年に日本で初開催し、これまでの累計動員数は200万人を突破している。今年も5月8日~10日に千葉・幕張メッセで開催される。JO1やINI、&TEAMに加え、ALPHA DRIVE ONEやCORTISといった韓国の大型新人の出演も話題だ。
「『KCON JAPAN 2026』では、ファン参加型プログラムの拡大に加え、夜市をコンセプトにしたフード体験や、日本でも人気の『オリーブヤング フェスタ』などの美容、最新ドラマや『SCREEN X』(韓国のCJ CGVと理工系研究機関・KAISTが共同開発した次世代の3面マルチプロジェクション映画上映システム)の体験など、Kライフスタイル全般へコンテンツを拡張し、新たな挑戦を続けていきます」(パク・チャヌク事業部長)