ぴえろ魔法少女シリーズの金字塔といえるTVアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』を手掛けたスタジオぴえろが、28年ぶりとなる新作『魔法の姉妹ルルットリリィ』を制作。魔法少女ジャンルも多岐にわたる中、令和の時代に「夢・芸能・日常」をあえて描く狙いは? スタジオぴえろの福井洋平さんと玩具制作を手掛けたBANDAI SPIRITSの宮前光さんに、アニメ制作の裏側と玩具開発の秘話について話を聞いた。
【画像】『クリィミーマミ』を彷彿とさせる美しい変身シーンも!
◆魔法に始まり世界救済、宿命まで…“魔法少女”の歴史と変遷
1983年の放送以来、いまだに新作ファッションアイテムなどが発売され、「魔法少女界隈」から熱い支持を得ている『魔法の天使 クリィミーマミ』。魔法を「夢を叶える手段」として描き、アイドルという二重生活を通じた少女の成長と、期限付きの魔法がもたらす切なさを確立した。その後のぴえろ魔法少女シリーズに多大なる影響を与えた金字塔といえる作品だ。
このスタジオぴえろによるシリーズの等身大な変身願望は、1990年代には、さらに魔法少女ジャンルで広がりを見せた。
前世からの過酷な宿命に抗い、多様な個性が集うチームによって「世界の救済」へとスケールアップした。2000年代以降は、肉弾戦を伴うアクションで体現する戦うヒロインや、性別や年齢を問わない多様性を取り入れ、不条理な運命や固定観念に抗い、自らの足で立つ「自己肯定」の象徴となるヒロインが登場。また、魔法の代償や救いのない運命の中でも、誰かのために祈る自己犠牲的な強さを描き、深い精神性を刻んだ作品もある。
かつての『魔法の天使 クリィミーマミ』が夢見た「なりたい自分」への変身は、時代を経て、過酷な現実を生き抜くための強固な意志そのものへと進化を遂げたと言える。
そんな魔法少女の歴史の起点となった『魔法の天使 クリィミーマミ』を手掛けたのは、『NARUTO -ナルト-』や『BLEACH』で知られるスタジオぴえろ。同スタジオがこの春、28年ぶりの新作『魔法の姉妹ルルットリリィ』を制作。スタジオぴえろの福井洋平さんと、玩具を販売するBANDAI SPIRITSの宮前光さんに、本作の背景を聞いた。
◆スタジオぴえろのプロデューサーがこぼした「バトルは疲れた…」
――長年愛される魔法少女ですが、どのような思いがありますか?
【宮前光さん】 日本の魔法少女の歴史は、絶対に途絶えさせてはいけないと思っています。私自身、ずっと応援してきたファンの一員として、「まさか本体(スタジオぴえろ)からこんな提供があるとは思わないだろう」というファンの方々の驚きや喜びを想像しながら、熱い思いをぶつけて商品を作りました。
【福井洋平さん】 実は「絶対に戦ってはいけない」という縛りを持つ「スタジオぴえろの魔法少女シリーズとは、何なのか?」を常に問い続けました。新しいものと旧シリーズを融合させ、最終的に出来上がったこの『魔法の姉妹ルルットリリィ』という作品が、その答えになってほしいと願っています。
――魔法少女ジャンルが、過酷な運命に抗う物語や、多様性・バトルが主流となった今、あえて「日常・夢・芸能」を主軸にしたスタイルを提示する狙いを教えてください。
【福井洋平さん】 弊社でも『NARUTO -ナルト-』や『BLEACH』のような骨太なバトル作品を数多く手掛けてきましたが、今回担当したプロデューサーが「バトルは疲れた…」とこぼしていたんです(笑)。情報過多で疲れやすい今の時代だからこそ、画面をぐっと睨みつけて観るのではなく、ゆったりとしながらもついつい観てしまうような、優しくて癒やされる世界観のアニメも必要だと感じました。
――さまざまなヒットアニメを製作してきたスタジオぴえろは、魔法少女ジャンルの先駆者でもあります。28年ぶりとなる新作『魔法の姉妹ルルットリリィ』には、期待感も大きくハードルが高かったと思います。いま改めて思うことはありますか?
【福井洋平さん】 スタジオぴえろの魔法少女シリーズは、創業者の布川ゆうじが手がけた初期の根幹をなす大切な作品です。新作を立ち上げるのはハードルが高く、プレッシャーもありましたが、「数多くある魔法少女作品の中で、スタジオぴえろの魔法少女をもう一度見せたい」という執念がありました。
◆AIやSNSの時代だからこそ、「魔法は万能ではない」を描く
――ターゲット層はいかがですか。
【福井洋平さん】 実は、スタジオぴえろの魔法少女シリーズは、もともと子どもだけでなく20代から50代の男女にも向けて作られてきました。本作が深夜放送という形をとっているのもそのためです。今の時代は配信もありますので、大人が観ても楽しめて、その先に小学生くらいの子どもたちが、親子で楽しんでくれるのが理想です。
――近年のAI技術やSNSなど、魔法のように自分を簡単に飾れる現代において、子どもたちへ伝えたいメッセージは何でしょうか。
【福井洋平さん】 『魔法の姉妹ルルットリリィ』の大きなテーマとして「魔法は万能ではない」ということを描いています。魔法を唱えれば何でも手に入るわけではなく、本当に強い想いや、自分自身で努力し続ける姿勢がなければ、夢は叶いません。作中でも姉妹は、変身はしますが、自分で時間を調整して仕事に行ったり、アイドル活動を頑張っています。何でも魔法に頼っていてはダメだというメッセージを強く込めています。
また、『クリィミーマミ』を踏襲し、「魔法が使えるのは1年間限定」という枷を設けています。終わりのある時間の中で姉妹が、どう成長していくかを描くためです。
◆『おそ松さん』から着想 主人公を「姉妹」にした理由は?
――多様化した魔法少女シリーズですが、スタジオぴえろとしては28年ぶりの新作です。どのような経緯でスタートしたのでしょうか。
【福井洋平さん】 『魔法の天使クリィミーマミ』の40周年に向けて、約7年前にバンダイナムコフィルムワークスさんからお声がけいただいたのがきっかけです。ただ、弊社内で現場の制作プロデューサーが決まらず、そこから2、3年が経ちました。その間、月1、2回のペースで「何が面白いか」と素案を双方で練り続けていました。
当時姉妹が主人公の物語が大ヒットしたことに着目しました。また、私が担当したアニメ『おそ松さん』で、兄弟の関係性にファンの方々が熱狂していた経験も大きかったです。多様なファンの個性に対応して魔法のステッキが1個より2個、ライブをするなら複数人の方が、バンダイナムコグループさんのビジネスにも広がりを持たせられるというメリットもあり、「姉妹」を主人公に据えることになりました。
――小学生(野々山風)と中学生(野々山流)の姉妹を主人公にした狙いを教えてください。
【福井洋平さん】 『クリィミーマミ』をリスペクトし、『ルルットリリィ』も少し背伸びしたい年代に設定しました。妹は姉に構ってもらいたくて変身し、姉はそんな妹を見て「私もなりたい」と憧れる。そうしたお互いの相乗効果やピュアな関係性を描くには、この年齢がベストでした。
【宮前光さん】 すぐ近くにいるのに違うことをしていて、誰にも話せない秘密がある。姉妹それぞれが握る秘密が乗っかってくるという要素は、魔法少女界隈のファンにとって大好物なんです。また、親世代にとっては、幼少期の「憧れ」がもう一度帰ってくるという側面もあると思います。
◆アニメと玩具がともに進化 「現実を見せない」ステッキへのこだわり
――今回は企画当初から、アニメと玩具が密接に連動して作られたそうですね。
【宮前光さん】 玩具は作品に寄り添うことが全てです。ただ、そのまま立体化すると商品として成り立たない部分もあるため、「アイスクリームみたいなモチーフがいいのでは?」など、監督からの初期案を元に100案以上のアイデアを出し合いながら制作陣とやり取りを重ねました。
【福井洋平さん】 今は技術が進歩し、100円均一ショップでも可愛いアイテムが買える時代です。だからこそ、それらと一線を画す圧倒的なクオリティを追求しました。監督の絵はアニメーター特有の柔らかいタッチだったので、宮前さんたち開発陣には、ミリ単位での丸さの追求など、本当にこだわっていただきました。
【宮前光さん】 大先輩へのリスペクトを欠かさず、「スタジオぴえろの魔法少女の良さはステッキに宿っている」という思いがありました。当初は、姉妹の片方がステッキ、片方がコンパクトという案もありましたが、「絶対に姉妹で喧嘩になる」ということで、2人ともステッキを持つ形に落ち着きました。
――変身シーンと玩具の連動について、技術的なこだわりはありますか?
【福井洋平さん】 『魔法の姉妹ルルットリリィ』本編の変身シーンと玩具のギミックは、どちらが先というわけではなく、最後の最後までキャッチボールをしながら同時進行で作りました。アニメの演出に玩具が寄り添い、逆に玩具の技術が本編の演出に還元されることも多々ありました。唯一お互いに妥協したのは「予算」の部分だけで、そこは市場に合わせたバランスをしっかりと取りました(笑)。
【宮前光さん】 光り方についても、最初は「電球1個で白く光るだけ」という想定もあったのですが、今の時代の鮮やかさや透明感を表現するために、「テープLED」という新技術を提案しました。同技術を取り入れたことで、ステッキが「ネオネオン」というネーミングになりました。
また、今回の商品は、大人も楽しめるディスプレイモデルブランド「PROPLICA(プロップリカ)」から展開しています。最大のこだわりは、魔法の世界に没入できるように、「なるべく現実が見えないように作っている」こと。ビスやスピーカーの穴、電池蓋などをすべてカバーで隠しています。
【福井洋平さん】 お互いのアイテムが合体するようなギミックも考えましたが、ぴえろ魔法少女シリーズではなくなるため、あえて別々のものとして独立させています。
◆バンダイナムコグループが全面協力…深い縁が重なった今、新作への使命感も
――アイドルという設定でもあるため、劇中の楽曲も重要になります。『魔法の天使クリィミーマミ』のテーマ曲「デリケートに好きして」は、数多くのアーティストがカバーするほど、人気を得ました。本作の音楽はどのように制作されたのでしょうか?
【福井洋平さん】 音楽展開についても『ラブライブ!』などを手掛けるランティスさん(バンダイナムコグループ)の豊富な知見をお借りしています。キャラクターの心情や物語の展開に合わせた挿入歌やエンディング主題歌を作っていただきました。今後、もしリアルなライブイベントが開催された際、ファンの方々がこのステッキをペンライト代わりに振ってくださるような連動ができたらと構想しています。
――アニメ化だけでなく、玩具や音楽など、バンダイナムコグループの全面的な協力のもと新作が出来上がりました。スタジオぴえろとしての手応えは?
【福井洋平さん】 バンダイ本社の正面ディスプレイを見た弊社の社長が、「私はここにスタジオぴえろの作品を飾ることはできなかった」と大変喜んでくれました。バンダイナムコグループさんの全面的な協力と、現代の技術を含めた深い縁が重なった今、このタイミングで新作を出さなければいけないという使命感もありました。この優しい世界観の中で、多くの方に楽しんでいただき、少しでも癒やしを届けられたらと願っています。
(文/'磯部正和)