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『BOSS』タイでトップブランドに、各メーカーが海外展開で苦戦するなかで貫いた“現地化”への舵切と“相棒”の再定義

 日本で“働く人の相棒”として長年親しまれてきた缶コーヒーブランド「BOSS」。国内飲料ブランドが海外展開に挑み、同じ成功を収めることは決して容易ではないが、同ブランドはタイのRTD(Ready To Drink)コーヒー市場に2021年に参入以降後、わずか数年でトップブランドに名を連ねる存在感を示している。味覚の違い、飲用シーン、文化背景、すべてが異なる市場で、なぜBOSSは受け入れられたのか。単なる「日本の味の輸出」ではない、海外戦略の考え方について話を聞いた。

【写真】クラフトボスとのコラボ、もちもち生地×カフェラテクリーム『白生ドーナツ(ダブルカフェラテ)』

■タイのRTDコーヒー市場は年10%の伸長、“プレミアム”なカフェ文化が急拡大

 RTD(Ready To Drink)コーヒーとは、缶やペットボトルに入った、そのまま飲めるコーヒー飲料を指す。タイでは同市場が年10%前後のペースで成長を続け、その大半が17バーツ前後(約80円)で購入できる“マスコーヒー(缶コーヒー)”が占めていた。しかし近年は、その内訳に変化が見られていると、同国でBOSSのマーケティングを担当する杉谷友理恵さんは言う。

「タイ市場のユニークな特徴は、価格帯の二極化にあります。マスコーヒーに加え、35~40バーツ(約130~150円)の“プレミアムRTDコーヒー”が併存し、近年は後者が急速に存在感を高めています。特に2021年以降、プレミアムRTDコーヒーブランドが複数、本格的に立ち上がり、選択肢が一気に増えていきました」(サントリー食品インターナショナル・杉谷友理恵さん)

 BOSSがタイ市場に参入したのは2021年10月。発売以降は年20%超の成長を続けており、プレミアムRTDコーヒー市場の拡大と歩調を合わせるかたちで存在感を高めてきた。

 なぜ“プレミアム”であることがフィットしたのか。かつてタイにおける缶コーヒーは、味を楽しむよりも、機能的なベネフィット(気付け)重視で飲む人が多い現状があった。1990年代前半に市場に登場した缶コーヒーは、主にブルーカラーワーカーが肉体労働の合間に飲む“気付け”の役割を担っていた。エナジードリンクが広く飲まれる文化のなかで「自然由来のカフェイン」「健康的なエナジードリンク代わり」として受け入れられてきた背景がある。

 缶コーヒー重視の流れが大きく変わり始めたのが2000年代。全国チェーンの「カフェアマゾン」がガソリンスタンド併設型の店舗として広がり、移動中でも気軽にカフェに立ち寄れる環境が整った。さらにスターバックスをはじめとする海外カフェブランドの進出、日本発のカフェの参入も相まって、コーヒーは次第に“気付け”から“楽しむ飲み物”へと意味を変えていった。

「コーヒーを飲む層も広がりました。かつては男性中心だった飲用者が、カフェチェーンができたことで、女性や若年層にも拡大しています。社会的な所得格差が激しいタイでは、プレミアムコーヒーを持つことで面子が保たれ、ビジネスシーンでの成功を手に入れやすい、という価値観があります。「洗練された自分」を演出する行為として受け止められるようになり、自分を鼓舞するアイテムとしてコーヒーが欠かせない存在になっていきました」(杉谷さん)

■商品発売後に行った軌道修正、“ビジネスアクセサリー”のような存在として再定義

 タイにおけるRTDコーヒーの主な販路は、コンビニエンスストアやスーパーマーケットといった「モダントレード(MT)」と、個人商店である「トラディショナルトレード(TT)」。一方、日本のように自動販売機が生活に深く根付いているわけではなく、自販機の比率は比較的低い。

 多くの人は職場に向かう途中や、職場内・近隣のコンビニでコーヒーを購入する。こうした日常導線のなかで、RTDコーヒーは“仕事モードに切り替えるスイッチ”としての役割を果たしている。

 種類も無数にあり、BirdyやNescafeといった根強いブランドも存在するなかで、BOSSが存在感を高めた背景には、いくつかの転換点があるという。

「ひとつは、カフェ文化がタイ国内に浸透し、プレミアムRTDコーヒーを受け入れる土壌が整ったタイミングでBOSSが参入できたことです。

 もうひとつは、発売後に行ったブランドの軌道修正です。当初は「カフェクオリティ」を前面に出し、購入層のメインをホワイトカラーの方たちだと想定していましたが、実際に購入者の生活を深掘りしていくと、そのなかでも中級収入層の方に多く買っていただいていることが分かってきました。購入動機の部分で、前にも申し上げた「BOSSを持つことで自信が持てる」「仕事ができる自分を演出できる」価値が見えてきて、そこからパッケージや広告の方向性を大きく転換し、タイのBOSSブランドを“ビジネスアクセサリー”のような存在として再定義していきました」

 BOSSのロゴを商品の中心に大きく配置したり、上下にキラッとする金と銀の帯を入れたり、プレミアムな存在感を高めた形で発売されたのが新商品「BOSS ダブルエスプレッソ」だ。

 タイのRTDコーヒー市場の約75%を占めるのが、砂糖とミルクを加えた“甘濃いタイプ”のコーヒーで、同商品の味わいも“甘濃い”設計がなされている。缶コーヒーブランドの多くがこの領域で競い合う一方、プレミアムな価格帯では明確な選択肢が少なかった。

「バイクタクシーの運転手へのサンプリングや家庭訪問調査といった地道な現地調査を行い、「ブラックコーヒーは苦すぎる。でも、しっかりとした強さは欲しい」という声をもとに、コーヒー・甘さ・ミルクのバランスを徹底的に検証しました。タイの甘濃いコーヒー文化に寄り添いながらも、プレミアム感を失わない味わいを追求し、BOSSシリーズの中でも最も高いカフェイン量(100mlあたり76mg)が入っています。

 ただし、開発はカフェイン量を目的にしたものではなく、コーヒー比率を高め、力強い味わいを追求した結果として、自然とカフェイン量が高くなっています。一方で、ミルクの役割を最適化することで、口当たりはあくまでなめらかに仕上げられているのが特徴です」

■日本とタイの“相棒”像に差異、「仕事中に飲むことで自信を与えてくれる存在」にシフト

 日本ではおなじみであるBOSSの「働く人の相棒」というキャッチコピー。これを海外展開する際は、各国の背景をもとに「再定義する必要がある」という。

 “相棒”という部分のエッセンスをとって、当初タイでは「Always with you」というキャッチコピーで広告展開をしていた。しかし、そのコピーが上手く機能していないことも痛感していた。

「日本では働く人が仕事中に缶コーヒーを飲んで、一息つく。ホットする。そういった情緒的な部分がCMや広告でも印象深いですが、「きちんとした自分でありたい」意識が強いタイでは、持ち物が自己表現の一部となり、仕事を頑張れる理由にもなっています。“相棒”の在り方や解釈が、日本とは異なることに気づいたんです。BOSSは、そうしたタイの働く人の価値観を踏まえ、「仕事中に飲むことで自信を与えてくれる存在」として相棒像を再定義していきました。

 BOSSの海外戦略の特徴は、世界共通のブランド軸を持ちながらも、その表現や中身を現地で最適化する点にあります。日本の成功モデルをそのまま持ち込むのではなく、まず現地の「働く人」を理解することから始め、価値・中身・パッケージ・広告を一貫して設計していくことを徹底することがあらためて強みになると感じました」(杉谷さん)

 今後はタイのみならず、ベトナムやオーストラリアなどアジア太平洋地域全体でブランドを拡張していく構想だ。「目指すのは、各国で“その土地の働く人にとっての相棒”として愛される存在であること」と杉谷さん。

「今回出したダブルエスプレッソは、タイの“ど真ん中”であるエスイェンタイプの味わいです。そこにプレミアムであることを掛け合わせたので、ブランドとしてもすごく大きな柱になれると考えています」