今年も6月から35度を超える猛暑日が続出し、熱中症の警戒が必要な季節を迎えている。高温多湿で、風も吹かない。アスファルトからの照り返しが地味にHPを削っていく…。大人でさえもつらいのに、より地面に近い位置にいる子どもは、なおさら危機的状況に置かれている。近年では“こども気温”というキーワードがあり、子どもの身長の高さで計測した気温が大人と比較して+7℃程度になる、子ども特有の暑熱環境があることが分かっている。我が子の熱中症リスクをいかに回避できるのか、“夏の風物詩”的イベントは灼熱の日本において消失していくしかないのか。これからの時期に気をつけたい、熱中症との向き合い方について専門家に話を聞いた。
【画像】「子どもは汗っかきではない」ママパパが勘違いしやすいあるあるとは…?
■子どもと大人で”約7℃”違う…「大人であれば、夏場の恰好にベンチコートを1枚羽織っている状態に相当する」
かつて熱射病、日射病と言われていたものが「熱中症」という言葉に統一されたのは2000年。気象庁が、1日の最高気温が35度以上の日を「猛暑日」と規定したのは2007年だった。この頃から人々の間で、熱中症に対する意識が徐々に高まってきたと言われている。年々社会問題化している熱中症に関して、サントリー食品インターナショナル(以下、サントリー)では、23年から「GREEN DA・KA・RA」ブランドの熱中症対策啓蒙活動の一環として“こども気温”というキーワードを設定し、子どもの熱中症リスクを呼び掛けている。
「毎年記録的な猛暑が続いている中、熱中症に対する危機感は多くの皆さんも感じられてはいるとは思いますが、実態として、まだまだ対策が追いついていないと思います。私どもサントリーは一飲料メーカーではありますが、その中で、熱中症対策で最も大切になる、こまめな水分補給の啓発や、塩分などのミネラルが入った熱中症対策設計の商品をお客様に届けることが重要な責務だと感じています」(サントリー食品インターナショナル株式会社 SBFジャパン ブランドマーケティング本部 中野未菜さん/以下同)
記録的猛暑が続く中、大人も暑さを感じてはいるが、子どもは身長が低い分地面に近く、照り返しの影響で大人よりも暑さを感じている。
「元々照り返しの影響による大人と子どもの差については言われていましたが、まだまだ世の中には知られていなかったと思います。そこで、親御さんなど、周りの大人の方々が”実はリスクが高い子どもの熱中症”に少しでも意識が向くようフックが作れないかと思い、この『こども気温』啓発活動を開始しました」
取り組みの中で最もインパクトがあったファクトは、「子どもの高さで測った気温は、大人の高さの気温より約7度も高くなる」ということ。これはウェザーマップ社と同社が共同で行った検証実験の結果だそう。“7度の差”というのは驚きである。
「我々も検証実験の結果を見て驚きました。この『7度』という数字はインパクトがありますが、それを自分事として受け取ってもらうには、どういう伝え方がいいのかとチームで議論を重ねました。その中で、大人の方に『こども気温』を簡易的に疑似体験いただくための一つのアイデアとして『大人であれば、夏場の恰好にベンチコートを1枚羽織っている状態に相当する』という情報を提示しています。これは当時、テレビやWebなど多くのメディアに取り上げていただきましたし、実際に『そんなに違うの?』と驚いていらっしゃる方が多かった。かなり大きな反響を得ることができたと思っています」
さらに、『こども気温』下での熱中症リスクをより理解してもらうことを目的に、今年は「実は子どもは汗っかきではない。子どもの発汗能力は未熟で、大人の約6割しか汗をかけない」というファクトも発表した。
「一般的に、子ども=汗っかきというイメージがあり、『汗をいっぱいかいて体温調節しているから大丈夫だよね』と思いがちです。しかし実際には、子どもは大人より汗腺のサイズが小さく、その働きも未熟なので、同じ体表面積当たりの発汗量は大人よりもずっと少ないんです。子どもは未熟な発汗能力を補うために、頭や胴体などの皮膚に血液を集めて、身体の表面から熱を外に逃がしています。でも猛暑日のように気温が皮膚温より高い環境では、身体の表面から熱を逃がすことができません。となると、発汗だけがその手段となるため、発汗能力が未熟な子どもは体内に熱がこもりやすくなり、熱中症リスクが上がってしまうのです。特に『こども気温』下においては、気温が皮膚温よりも高くなるケースが多いため、子どもの熱中症対策をしっかり行うことが重要です」
「観察」「水分補給」「暑さから逃げる」救命医が解説するリスク回避のポイント
いわゆる『こども気温』下では、水分補給だけでなく、子どもの状態を観察すること、体温を下げてくれるような涼しい日陰などに入って、暑さから逃げることが重要になってくるという。救急専門医の藤田正彦医師は、「救急車の搬送も、昔だったら高齢者の方が割合的には多かったのですが、それが低年齢化してきています」という。
「大人と子どもでは、まったく体温調整機能が異なるということは、医者たちの間では常識だったのですが、熱中症で搬送されたお子さんの親御さんからはよく『汗をしっかりかけているから大丈夫だと思った』という言葉を聞きます。しかしそれは見せかけで、子どもの発汗能力は大人よりも未熟です。ダラダラ汗をかいているように見えても、必要な量を必要なタイミングでしっかり出せているわけではないというのを大人が知るべきだと思います」(藤田医師、以下同)。
藤田医師による、子どもの熱中症を防ぐポイントは「観察」「水分補給」「暑さから逃げる」の3つがあるという。
(1)「観察」:熱がこもっていることを見分けるポイントは「顔の赤さ」
体に熱がこもっている(深部体温が高い)ことを見分ける指標の一つは、「顔が赤くなっているか」。これは子どもが未熟な発汗能力を補うために、頭部や胴体の皮膚に血液をより多く集める生理的特性から起こる反応。「さっきより顔が赤くなっている、汗の量が減ってきているなど、お子さんの経時的な変化を確認するのが重要です。日陰に入ったとき、休憩するとき、親御さんも暑いと思うので大変だと思うのですが、お子さんの目線の高さに屈むなどして状態の変化を観察しましょう」。
(2)「水分補給」:スポーツドリンクなどで、水分と塩分をこまめに摂ること
汗で失われる水分と塩分の摂取が、熱中症対策の基本。発汗を伴う暑い環境では、水分だけでなく塩分(ナトリウム)などの電解質も失われるため、スポーツドリンクなど“電解質を含む飲料”の活用が効果的。水分補給は、喉が渇いてからでは遅く、“30分おきに100~150mlずつ”を目安にこまめに摂ることが推奨される。「糖質が入ったドリンクを飲みすぎるのはどうか…と親御さんから相談を受けることもありますが、炎天下においては飲みすぎて問題になるといったことはありません。カフェインなどを含有する飲み物は利尿作用があるため、飲みすぎには注意が必要です」。
(3)「暑さから逃げる」:湿度が低く、ひんやりと感じる日陰を選ぶこと
体から熱を逃がすためには、涼しい場所で「暑さから逃げる」ことが大切。日陰での安静が推奨されるが、日陰でも地面に近いことで高温状態になることも。日陰だから安心というわけではなく、少しひんやりと感じるような、気温が低いところで休むとよい。「家族でお出かけをする時は、出かける前から熱中症対策が始まっていると思ってよいでしょう。スケジュールは、休憩や水分補給のタイミングも考慮して立てる。日陰となる休憩場所がどこにあるのか、あらかじめMAP等を調べておく。そういった大人の意識が、暑さから子どもを守ることにつながっていきます」。
■「こども気温」を理解した上で、楽しい夏を過ごしてほしい
今年は夏の真っただ中に開催されていた全国各地の夏祭りや花火大会を、5~6月に前倒しするなどの判断を各自治体がとっている。家庭によっては、毎年夏休みの恒例行事を適切に楽しめないもの悲しさを感じる人もいるだろう。
熱中症のリスクが高い夏場、子どもに対して「気温35度以上の猛暑日には外で遊ぶのをやめましょう。30度以上の真夏日でも控えましょう」と言われている。確かに熱中症を避けるためには大切なことではあるが、夏の楽しみをすべて犠牲にするというよりは、「熱中症回避のための知識を深めた上で楽しむのがよい」と藤田医師。
「今後、夏イベントの前倒し・延期は止められない流れになってくるとは思いますが、その中でも主催者側・来場者側の両方で先ほど申し上げたような知識を深めていき、上手な向き合い方さえ理解できれば、今まで通り夏のイベントをもっと楽しく過ごせるようになると思います」
“こども気温”の啓発に取り組むサントリーの中野さんは「熱中症対策はもはや深刻な社会課題の一つで、これからも継続的に付き合っていかなければいけないと認識しています」と言及。
「私たちは一飲料メーカーとして、熱中症対策飲料をご提供することはもちろんですが、もう一つ視座を上げて、社会課題解決に取り組みたいと考えています。『こども気温』啓発活動を通じて、特に親御さんたちに熱中症に対する意識を上げていただき、子どもから大人まで、多くの皆さんにより安全に楽しい夏を過ごしていただけたら嬉しいです」