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芸人たちによる“笑いの大河ドラマ”『有吉の壁』の魅力 スベっても笑える理由とは?

 お笑いタレントの有吉弘行がMC、タレントの佐藤栞里がアシスタントを務める、日本テレビ系バラエティー『有吉の壁』(毎週水曜 後7:00)。5年間の特番時代を経て、この4月からゴールデンタイムでのレギュラーがスタートしたが、収録や放送の前後には、出演した芸人たちが相次いで感想などをSNSでつぶやき、視聴者からも愛ある投稿が寄せられるなど注目を集めている。芸人たちが織りなす『笑いの大河ドラマ』と言っても過言ではない、生き様や関係性が垣間見える熱気あふれる『有吉の壁』は、どのように作られているのか。大規模なロケが難しい新型コロナウイルスとの向き合い方も含めて、総合演出を務める橋本和明氏に話を聞いた。

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■安村のバリカンに直感的な手応え あふれる有吉の芸人愛&佐藤栞里が自然に見せた“すごみ”とは?

 2015年に特番でスタートした『有吉の壁』。誕生のきっかけは、同局『有吉ゼミ』を担当している橋本氏が、有吉との食事の席で「お笑いやりたいですね」と話したことだった。「そこで書いた企画書が『有吉の壁』でした。僕は『笑う犬の生活』(フジテレビ系)とかを見て育った世代なので、コント番組が大好きだったんですけど、深夜でコントをやるには予算が厳しかった。なので、ロケで街をセットにして、そのままお笑いをしたらいいんじゃないかということで、考えました。抽象的なんですけど“壁”っていうコンセプトが、立ち向かったりとか、課題を乗り越えるみたいなイメージがあって、いいなと」。

 そこから具体的なイメージを固め、「壁を越え芸人として成長する」という純度100%のバラエティーが誕生。大勢の芸人たちが、遊園地、ホテル、ショッピングモール、学校など、あらゆる場所で有吉を笑わせるために奮闘する名物企画「一般人の壁」も、手探りの状態から始まった。「人混みもすごいし、現場もうまく仕切れなくて、最初は何を撮っているかわからない状態でした。今までやってきた番組と違いすぎて、『どうなのかな?』という不安な部分はあったのですが、とにかく明るい安村さんがバリカンで頭を刈った瞬間に、芸人さんの熱量がすごいなと感じたんです。そこから編集作業に入った段階で『相当おもしろいかもしれない』という気持ちになりました」。

 出演する芸人たちはもちろん、判定をしながら誰よりも楽しんでいる有吉のまなざしも番組の見どころのひとつだ。「有吉さんは、芸人さんをどう生かすかっていうことを全力で考えてくださっていますね。芸人さんの輝き方って多様で、王道のコントが巧みな人もいれば、スベっても全力な様子が面白い人、生き様自体が芸になっている人もいます。有吉さんは、そんな芸人さんの本質をよく見ていらっしゃっていて、安村さんとのかけあいなども、本当に呼吸がぴったりですよね」。アシスタントを務める佐藤栞里の“すごみ”も感じている。特番時代、パンサーの尾形貴弘が“ドクターフィッシュ”として近づいてきた際、佐藤はそっと足を差し出した。橋本氏は、このシーンに佐藤の魅力が集約されていると語る。

 「この間、それをレギュラー回で再び放送するにあたって、副音声を収録したんですが、有吉さんがそのシーンで『がっぷり四つだ』とおっしゃったんです。普通は『やめてください』じゃないですか。でも、嫌がりもせず、かといって“おいしい”っていう感じも出さず、ただ足を差し出すっていう狂気(笑)。それって、もともと栞里さんが持っている本質ですよね。『有吉の壁』の現場に来て、ただ素直に一番楽しもうとしているんです、それがすごいと思います。心から番組を楽しんでいる人は最強だということを感じさせてくれる存在ですね」

■芸人がフルスイングできる環境作り レギュラー前に有吉が決意表明

 出演者はもちろん、スタッフも芸人愛あふれるスタンスで取り組んでいる。「当然ですが、芸人さんがプレイヤー・主役です。我々スタッフは、芸人さんが迷っている時に相談に乗る、パートナーであり、作家であり、ブレーンであり…みたいな立場で関われるようにしてます。スタッフがそういう立場で関わってるから、こんな自由な空気のお笑い番組になったのかもしれません。あくまで『有吉さんの壁を越えられるか』ということに集中してもらいたいので、ネタについても、基本的は芸人さんにおまかせして、好きなことをやってもらうスタンスです。有吉さんとも『○が出ても、×が出てもいい番組ですね』と話すのですが、芸人さんが一生懸命考えたネタが壁を越えるかどうかという“ドキュメンタリーショー”に近い感覚で、だから芸人さんが思い切りやりたいことをやってくれるんでしょうね」。

 こうした熱量が広がりを見せていき、特番スタートから5年のタイミングでゴールデンタイムでのレギュラー化が決定。2月9日放送のJFN系ラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』で、有吉はゴールデンでのレギュラーについての驚きを口にしながらも「二つ返事でしたね。今どき(ゴールデンで)お笑いの番組を見ないだろうっていうネガティブな意見もあると思うけど、こういうのは気運ですから」と思いを語り、続けてこんなことを話していた。

 「これがもし失敗しても、ゴールデンでお笑いやるのはありだなっていう。『有吉の壁は失敗したけど、あそこを直せば良かったんじゃないか』っていうのも出てくるかもしれないし。調子良かったら、ウチの局でもやってみようかっていうのが出てくるかもしれない。こういうのは若手・中堅のために1回引き受けないといけない仕事」

 いざ始まったゴールデンでのレギュラーでも、スタイルは崩さずフルスイングで放送。橋本氏は「ダメだったらすぐに撤退しようという考えでした」と振り返るが、視聴率も好調で、5月6日放送の『笑いの壁に挑む! 激闘2時間SP』が、放送批評懇談会が選定する「2020年5月度ギャラクシー賞月間賞」を受賞した。「純粋なお笑い番組を成立させることが、難しくなっている昨今のテレビの状況のなかで、ゴールデンタイムのレギュラー番組として『お笑い』だけにこだわった放送を続けている。司会の有吉弘行による芸人愛あふれるムチャ振りに対し、苦しみながらも楽しそうにお笑い脳をフル回転させている芸人たちの姿は、多幸感に満ちている」との賛辞が送られている。

■リモート企画で生まれた“バケツ芸” ドキュメンタリーから生まれる笑い

 対象となった放送では、芸人たちが架空の俳優や女優になりきってスピーチする「スピーチの壁を越えろ!日本カベデミー賞選手権」を実施。この企画は、有吉がツイッターで『日本アカデミー賞の人選手権』をやってみたいとつぶやいたことがきっかけで実現。橋本氏がかつて『日本アカデミー賞』の演出をやっていたこともあり、より笑いが伝わりやすい環境が整った。「撮り方、画面の作り方はこだわるんですけど、何が撮れるかは全く計算できていませんでした(笑)。芸人さんの即興の腕が本当に試される企画ですよね。だからみなさん、収録終わった時は落ち込んでいて、でも有吉さんは収録後に手応えを感じていたようで、実際編集すると予測不能な面白さがしっかり出てました。自分ではなかなか勇気を出してできない企画で、有吉さんってすごいなと感じました」。

 このまま順調に進んでいくかと思いきや、新型コロナウイルスの影響で、従来のようなロケ撮影が困難な状況になってしまった。ほかのバラエティー番組も、軒並みリモート収録へと移っていく中、「リモートでなければいけないものをやろう」という気持ちで、スタッフ総出で企画を考えていった。そこから生まれたのが、“壁芸人”たちがプライベートでくつろぐスターになりきる『スターのおもしろ自宅公開選手権』。原田龍二に扮した安村が、自宅の一室で「久しぶりに温泉入りたいな」と切り出し、バケツの水をかぶる“名シーン”が誕生した。

 橋本氏は、安村の奮闘によって企画の意義がクリアになったと語る。「この企画では、マルチで9つの画面が出ているのですが、バケツをかぶり終えた安村さんが水をベランダに出している様子も小さい画面で流れるんです。それを見た有吉さんから『まだ、やってんのか』っていうツッコミが入ったりして。そういう発見する面白さもテレビを見る動機になるなって思います。9面の中で視聴者が発見するからこそ面白くなるのであって、大きく映し出されてたら、あそこまでの笑いにはならなかったと思います。9面あっても、そこに目がいく芸人さんのすごみを、安村さんが家を水浸しにして教えてくれました(笑)」。

 好調を支えているのは「ゴールデンでも軸はブレない」という思いと、Huluでの完全版、YouTubeチャンネルでの人気キャラクターの別オリジナル動画の配信など、お笑い好きからライトな層まで、幅広いニーズに応えられる環境だ。きょう1日放送の「夏の壁を越えろ! 2時間スペシャル」(後7:00)では、「一般人の壁」が、4月15日の放送以来、約3ヶ月ぶりに復活。そのほかにも、グリーンバックに写真や映像などを合成し、誰もが知っている名作映画の中の人になりきる「名作の壁を越えろ!水曜ロードショー」、壁芸人らが自分で用意したフリップネタが並ぶフリマ会場で、気になるフリップを有吉が買っていく「フリマの壁を越えろ!フリップマーケット」など、新企画が次々に登場する。

 今回の収録を終えて、安村が「ほとんどスベりましたが、楽しかったです!」とのコメントを残していたが、ここにこそ『有吉の壁』の魅力が凝縮されている。橋本氏は次のように分析する。「普通だったら『ほとんどスベりました』という番宣は嫌なものですが(笑)、この番組だったら、見ている人も『どれくらいスベったのか見てみよう』って思ってくれる。ネタ自体はスベってるかもしれないけど、安村さんの生き様は面白いかもしれない、そのことを視聴者の方も理解してくれてるから、僕たちもできるだけ、その場で起きたことをありのままお見せしたいと思います」。

 先日放送されたテレビ朝日系『アメトーーク!』でも、出川哲朗が「お笑い界にとって、ゴールデンでもまっさらな番組で勝負できるというすばらしい光になった」と絶賛していた。芸人からも視聴者からも愛されている『有吉の壁』だが、今後はどういった物語を見せてくれるのだろうか。「ドキュメンタリーの要素が大きいので、どうなっていくかわかりません(笑)。毎回起きていることから何が面白いかを芸人さんと一緒に見つけていきたいですね。尾形さんとワタリ119さんの不思議なコラボなども生まれてきていますし、芸人さんの進む方向についていきたいと思います。5年の歳月が流れ、関係性も深まってチーム感も強くなってきているので、今後も予測不能な物語が生まれると思います」。これからも芸人たちが織りなす大河ドラマは続いていく。