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長澤まさみ、ダメな母親役で新境地「30代はリアリティある役を演じたい」

 17歳の少年が祖父母を殺害するという実際に起きた事件をベースとした映画『MOTHER マザー』で、男たちとゆきずりの関係を持ち、その場しのぎで生きてきたシングルマザーの秋子役を演じた長澤まさみ。近年はコメディエンヌとしても高い評価を得ており、明るく健康的なイメージを持つ彼女が、女優生活20年という節目の年にこの役に挑んだ意義や、今後の活動の展望について語った。

【写真】イメージと真逆…うつろな目でタバコをふかす姿や阿部サダヲにしなだれかかる長澤まさみ

◆母親経験がないから、演じられるかどうか不安もあった

──映画『MOTHER マザー』の秋子は、これまで長澤さんが演じてきたどの役柄にもない毒や歪み、そして「母親という存在の闇」をはらんだ人物でした。ご自身ではこの役をどのように理解して演じられたのでしょうか?

【長澤まさみ】 理解という意味では最後までできなかったですし、自分で「演じたい」と強く思って出演を決めた役でありながら、現場に入る直前までどう演じたらいいのか悩みました。でもそれが答えだったんです。私自身が秋子に逃げ道や言い訳を与えてはいけないと。たしかに秋子がなぜ取り返しのつかないところまで堕ちてしまったかについては、生い立ちも関係していたかもしれないし、「秋子もかわいそうな子どもの1人だったんだ」という見方もあるかもしれません。だけど私が秋子に同情していたら、どこか手加減した芝居になってしまうんじゃないかと。それだけはしたくないと思ったんですよね。

──共感できるところが1つもない役を演じる難しさについてはいかがでしたか?

【長澤まさみ】 私も女性なのでいつか母親になるかもしれないと考えると、脚本に書かれている秋子の行動や言動はどれもこれも許せなかったし、怒りも湧いてきました。その感情に引け目を持たず、秋子に対して最後まで厳しく向き合えたことが、最後まで演じる道しるべのようなものだったと思います。

──2人の子どもたちは“毒母”の秋子を最後まで慕い続けます。演じていて母性のようなものは生まれましたか?

【長澤まさみ】 たしかに私は子どもを産んだことがないので、母親を演じられるかどうかについては多少不安もありました。でもそこは私の力というよりも、(子役の)2人が私を母親にしてくれたんです。今でも忘れられないのが、3人で川の字になって寝ているシーンで冬華役の浅田芭路ちゃんがふいに私の手を握ってきたんです。脚本にはそんなこと1行も書いてないのに。ああ、小さい子の手って温かいんだなあってとても感動しました。

──周平役の奥平大兼くんも「長澤さんがお母さんのように接してくれた」とコメントしていました。浅田芭路ちゃんも長澤さんに母性を感じたからこそ、自然とそういう行動になったのかも?

【長澤まさみ】 芭路ちゃんの場合は、たぶん彼女の“演技プラン”だったんじゃないかなと思います。彼女はクランクインの日にも「もっとお芝居がしたい」と言っていたほどお芝居が大好きで、幼いながらにしっかりとした女優でした。大兼くんも初めての演技とは思えないほど、まっすぐぶつかってきてくれて。母親を演じる上で、“プロの役者”として私の子どもになってくれた2人にはとても助けられましたね。

◆「清純派でいなさい」と言われたことは無い

──今まで演じたことのない役柄に挑んだのは、女優生活20年のタイミングということも関係していますか?

【長澤まさみ】 意識したことがなかったので、周囲から言われて逆に「そんなに月日が経っていたんだ」と気付かされましたね。ただ今回のような役に取り組める年齢になったのは感慨深いですし、節目の年にこの作品に巡り合って、「自分は運がいい」と思いました。

──運がいい、というのは?

【長澤まさみ】 ずっと運がいいんですよ。それこそデビューのきっかけとなった「東宝シンデレラ」オーディションに始まって。しかも私がデビューした時期は、単館系の映画も活発に作られていたり、同世代の女優さんたちもどんどん出てきたりと日本映画がとても盛り上がっていたんですね。子どもだったので映画のスタッフさんたちにもすごく可愛がってもらって、「映画の現場って楽しい!」という経験をたくさんさせていただけました。そんな幸運なスタートを切れたのは私の力よりも運、めぐり合わせとしか思えないんですよね。

──そんな“子ども”だった長澤さんも年齢を重ねるごとに幅広い役を演じてこられました。そんななかで、「東宝シンデレラ=王道・清純派」というイメージに葛藤したことはありましたか?

【長澤まさみ】 それが会社からは一度も「清純派でいなさい」と言われたことはないんですよ。たしかに東宝グループには「朗らかに、清く正しく美しく」というモットーがありますが、実際はとても伸び伸びさせてくれました。逆にそういうイメージがあるからこそ、今回の秋子のような汚れた役にインパクトがあるというか、「よく選んだね」と褒めていただけるのかもしれないですね(笑)。

──運もさることながら、「女優としてこれをつかみたい」と意識的に取り組んできたことはありますか?

【長澤まさみ】 わりと常に夢や憧れのようなものは描くほうなんです。ここ数年は「もっとたくさん映画に携わりたい」と思って取り組んできました。もともとデビューも映画でして、多くの方に知っていただけたきっかけも『ロボコン』(2003年公開)や『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年公開)といった映画だったこともあって、これまでも「この映画監督とご一緒したい」とか「こういうジャンルの映画に挑戦してみたい」など、映画に関する目標を描くことが多かったですね。最近は、お仕事も映画の割合が増えてきて、原点回帰のような思いにもなっています。

◆30代はリアリティを持った役を…仕事を全うする“キャリアウーマン”を演じたい

──映画の現場にはどんな魅力があるんですか?

【長澤まさみ】 映画に携わっている人たちは、どこか泥臭くて愛すべきところがあります。あるとき映画のスタッフさんから「長澤さんは映画とドラマ、どっちが好きなんですか?」って問い詰められたことがありました。私自身はお芝居そのものに惹かれているので「ドラマも舞台も映画も好きです」と答えたら、その方はとても不満な顔をしていて。“ああ、この人は本当に映画を愛してるんだな”と思ったんですよね。お芝居は基本的に地味な作業の積み重ねで、光が当たるのはほんの一瞬。それは映画もドラマも舞台も同じなんですが、特にキャストとスタッフが入り混じって汗をかきながら作る映画の現場では、そのことを強く感じることが多いんです。

──30代になりこの先、演じてみたいジャンルや役はありますか?

【長澤まさみ】 “キャリアウーマン”というとざっくりした言い方になりますが、仕事を全うする女性の役や、そうした女性にフォーカスを当てる作品に出てみたいです。アメリカの女優、ジェシカ・チャステインさんが演じるスマートな女性像がとても好きで、彼女の作品をよく観ます。私も彼女のような役をリアリティを持って演じられるように、年齢を重ねていきたいと思っています。

(文/児玉澄子 写真/逢坂聡)